信じられる炎を、側に感じて。
だから私はここに立つの。
たとえここが暗闇だと分かっていても。
それでも―
私はこの手で、人を殺める。

貴方も私のこと、信じてるのかな。
―たとえこの面の下に、狂気の笑みが浮かんでいても。

いつか壊れてしまう。
すでに壊れ始めている。
私にはそれが、分かっているから。
―だから壊れる前だけは、貴方が側にいて欲しい。






「ち………っ」

今日もまた、よく眠れなかった。
寝不足にはもう慣れた。
本当は学校なんて行きたくはない…授業だって、後でプリントをもらえばわかる。
それでも行くのは…。

「わかってる…」

そんな理由は、簡単なこと…わかりきったことだ。
それは…少しでも長く、あの人と共にいたいから。
私に残されている時間の中の出来る限り長くの時間を。

「それでいいんだ…きっと」

このままで構わない…無理に変わる必要なんてない。
無理に変わろうとしても…もう、どうにもならないから。

「………っ」

無駄に豪華な天蓋付きのベッドの上に起こした身が、私の意に反してふらつく。
喉元になにかがせりあがってきて、急いで口を塞いだ。

「ゴホッ…カハッ……」

そして軽く咳込み、それがおさまったことを確認して、掌を見た。

「またか…」

血に染まった掌。
驚くことなどない。
ベッドサイドにあった薬の袋を引っつかんで、中の薬を出す。

「手…洗うか…水もいるし」

血に臆することなどない。
例えそれが自分のものであろうとも。
もう慣れたことだから。

「まあ…でも、行けないこともない…か」

近場の洗面所でまずは掌についた血を洗い流し、持ってきたガラスのコップに水を汲んだ。
血を吐いたばかりの割には意識もはっきりしている、別に普段とかわらない。
慣れたからだとすればそれはあまりいただけないが。

「大丈夫………たいしたことない」

部屋に戻って薬を飲み再び異常がないことを確認し、鞄を手にとった。
どれくらい壊れてしまっているかはわからない。
でも…まだ、まだ…大丈夫だ…私はそんなに簡単に壊れたりはしない。

「この気持ちをバネにして…それで、いい」

伝えられなくても、自分自身の中にその思いが燃え続けている限り。
私はギリギリの状況で…踏み止まってみせる。






冷たく、熱い蒼き焔
いつもそれはきっと傍らに
儚く、壊れそうな
あるいは脆く、既に崩れかけた

消え入りそうなその偽りの笑顔を
水面にだけ映る真実を―――――

たとえ残された時間が僅かでも
今、この瞬間しか残されていなくても
その、傍に






「あっ、おはよー!」

水玉のそんな声がして俺は教室の入口を見た。

「………おはよ」

そこには小さくぼそりと呟くように挨拶を返すの姿。
昨日も任務だったはずだが…最近は毎日来ている。
調子がいいのか…それならそれで、これほどいいことはないのだが。

「…最近、いいのか」

がちょうど横を通り過ぎるその時、俺は聞いた。
きっとそれは気にかかるから…こいつのことは。

「…それは棗にも言えること。私は平気だけど」

そんなの言葉にホッと胸を撫で下ろす俺がいた。
ただ気にかかるだけではなく…心配するからこそ。
心配するのはそれ相応の想いがあるから。

「…また今夜、任務だってさ」

そんな言葉を無視できないのもそういう想いがあるからだ。
は何も気付いていないだろう…でも、いい。
今、この瞬間を共に過ごせるだけで、いい…あまり多く欲しがるつもりはない。

「棗も、一緒………だって。拒んだら…」

「…わかってる。行けばいいんだろ」

それが例え、闇の底でようやく繋がっているものだとしても。
俺は構わない…隣にいられる、それだけでも十分に幸せなことだと。
思うことが出来る自分をどこか嘲る俺がいるのは…見て見ぬふりをするしかない。

「今日の一限は…」

「神野の算数」

そんなたわいない、会話などとは到底呼べないそれであっても…。
今を生きることが、俺達にとってどれほど苛酷なものかを考えれば。

「うげっ、苦手なヤツ朝からか…」

そんな苦虫をかみつぶしたようなの表情も。
この世界に慣れきってしまった俺達にしてみれば、生きた表情であって。

「でも…仕方ないか」

決まって最後に見せるその憂いを含んだ偽りの微笑みに感じるものの正体が、こいつを好きだという想いなど。
とっくに気付いていながら、不機嫌…または無愛想というオブラートに包んで。
素直になどなれるはずもないまま、ただ見守り、傍らにいることが、精一杯なのだ……






………今日もまた同じ。
私の手と、彼の手は、罪と言う名の血に染まる。
繰り返せど繰り返せど、メビウスの輪のごとく終わりを知らない運命は巡る。

「………」

「………」

こんな夜はいくら一緒に居ても、思考が停止してしまって何も感じることができなくなる。
それが普段、何にも代えがたい心地良さを与えてくれる存在であっても。
私に何かを与えることは叶わないのだ。

「………棗」

けれど今日はほんの少し違う。
それは歯車が噛み合わなくなっているから。
ゆっくりゆっくり、時間をかけて私自身が壊れていっているからなのだろう。

「棗……」

心も。
体も。
全て。

「なつ……っ……」

急に空気を吸い込めなくなったのは、体が壊れてきたからか?
………違う。
唇が塞がれているからだ。

「ん……んっ」

長い長い、一瞬が永遠に感じられるのは、それを強く願うがため。
誓いは海に、願いは空に、消えて幾度、星に祈ったことか。

「悪ィ……」

「棗なら、いい」

離された唇に、その言葉に虚しさを覚えるのも。
彼の気まぐれ、衝動的な行動だと知りながら嬉しさを覚えるのも……また。
本当は今にも溢れそうな恋心に必死になって蓋をして、冷静という仮面をかぶっているから。

「悪くない……」

例え私に、永遠という時間が残されていたとて、許されざる恋なのだ。
私には彼を明るく眩しく照らすことなど出来はしない。

「ただ」

彼に必要なのは月ではない。
彼自身が月だから…同じものはいらない。
輝くための太陽が必要なのだ。

「その代償を支払ってくれるなら…」

月は世界に二つは必要ない。
私は近く消えるのだろう。
太陽と月を見守る星になれよと、囁く声に身を委ねて。

「棗の…一瞬を私に」

「………」

「偽りの月が輝きを失うまでの一瞬を、本物の月に見ていてほしい」

「………ああ」

手折られた花は散りゆき、枯れる。
滑り落ちた硝子は割れて、破片となる。
見限られた月は光を失い、姿を消す。

「一人の夜は淋しいから」






壊れるその直前まで

壊れてしまってもずっと

側にいて

傍らにいたい

私は私のうちに想いを秘めて

俺はその想いを明かせぬまま

私の太陽は

俺の太陽は



オマエシカイナイ・・・・・・・・・




**あとがき**
如月ユウ様からのリクでアリスの棗夢でした。ついでに不完全燃焼第2弾☆(「☆…って」)
冒頭のヒロイン視点の詩は、50000hit記念に頂いたものを引用しました。

…ちなみにリク内容は冒頭の詩から…イメージしたら…こうなりました。
一方通行な恋×2、棗の気持ちに気づいていなければいいんだそうで…どんなもんでしょうね。
こんなもんですか?
残りの設定は任せられたので一応、危力系ヒロイン・寿命に関わるタイプ(not連載ヒロイン)で。

いうまでもないですが詩の部分は赤はヒロイン視点、青は棗視点、最後の紫は二人の共通の思いです。


*お持ち帰りは如月ユウ様だけでお願いします。




―――――

僕が無茶言った結果。
わーい素敵。ありがとう。
ちゃんと壊れそうだし。甘いし。素敵。
やっぱ人の手に託せるっていいよね。
自分にはないものが帰ってきて。

如月 ユウ