現世に比べると寒い尸魂界は、桜の花もようやく八分咲き。
そんな四月の始め、私は護廷十三隊…その中でも特に人気の高い十番隊への入隊が認められたのだった。
特に十番隊を熱望していたわけではないにしても、選ばれたからには何かを認められたってことだ。

「精一杯がんばるぞ!」

それは素直に嬉しいことだから精一杯報いるつもりだ。
まずは…時間になったら執務室に行かなければないらしい。
それが護廷十三隊の隊員としての第一歩というわけだ。

「…それにしても、隊舎って結構大きいな…」

最初に見取り図をもらっていなければ迷っていただろう。
そう感じられる程には隊舎は広くて、入口から執務室までも結構な距離があった。
護廷十三隊の各隊が200人以上の隊士を抱えるわけだから当然って言えば当然だけれど。

「……あ、ここだ」

人気が高い、即ち希望人数が多い割には採用人数が少なかった十番隊での女子の新入隊員は私一人らしかった。
私の友人たちもまた十番隊を希望したのに採用されなくて、そんな人は他にもごまんといるらしい。
なんでもほとんど隊長目当てらしく…有名なだけに、私も名前は聞いたことはあるけれど。

「あら」

たしか、名前は日番谷冬獅郎、護廷十三隊の史上最年少で隊長まで上り詰めた。
私がついこの前卒業した真央霊術院も最短で卒業した数百年に一度の神童。
それでいて流魂街出身、なんて基本的な情報を思い起こしていると、後ろから声がかけられた。

「!?」

「もしかしてあなたね、今期入隊の唯一の子。名前は、ちゃん」

振り返ればそこには金髪で巨乳の綺麗なお姉さん。
そんな彼女の腰のあたりにあるのは…副官章だ。
副官章…といえば、副隊長であることを示すものだ…ということは、この綺麗な人は。

「はい、私は今期からお世話になります、です。…あなたは…もしかして松本乱菊副隊長ですか?」

こうして入隊が決まってからは、隊長・副隊長くらいは把握せねばと調べておいたのだ。
そんな私が自分の入隊する十番隊の副隊長の名前を知らないはずがない。
顔は一致していないが、それは他にも言えることで、今まで会ったことが無いのだから仕方ないことだ。

「正解。私がここの副隊長よ。隊長はもうすぐ来るわ。入って待ってなさいよ」

そんな松本副隊長の言葉に甘えて、私は執務室へ入ったのだった。






それからしばらくして、日番谷隊長はやってきた。
袖の無い白い羽織り、背に括りつけたかなり長い斬魄刀。
逆立った銀髪に、マリンブルーの瞳。

(うわ………)

実際に見るのは勿論初めてで、そんな自分の隊長の第一印象は…。

(すごい、カッコイイ…)

噂に聞いてはいた。
希代の天才と言われる十番隊の隊長が人気なのはそれだけではなくて。
見目麗しいからである、と。

「お前か…今期入隊のは」

「は、はい!」

「今期の入隊はお前だけだ。だから特に入隊式もやらねぇ…それに、今日から早速仕事に入って貰う」

淡々と話を進めていく日番谷隊長。
内容は驚くものだったけれど、私は真剣に聞いていた。
…あれだけの人気で入隊したのは第一希望でもない私だけだったとは…。

「……と言っても不慣れなのはわかっている。わからないことは周りに遠慮無く聞いてもらって結構だ」

「はい」

結局、変則的な形の入隊だったことは否めないし、それは残念だったかもしれないが。 でも、こうして直接言葉をかけてもらえたのだから、これ以上のことはそうはないはずだ。
きっとこれを友達に報告すればものすごく羨ましがられるのだろう。

「お前は…霊術院で六年間首席だったんだよな」

「は…はい」

「お前のことは院の教師からも聞いてる。期待してるから、頑張れよ」

しかも、そんな言葉までかけてもらえるなんて。
私はものすごく恵まれた立場にいる。
これは、頑張らないわけにはいかなかった。

(ああ…)

この恵まれた立場にいるから、というだけではなくて。
そう思ったのは、多分…一目惚れを…してしまったからなのだろう。
今まで男の人なんて眼中になかったけれど…日番谷隊長は噂通り、とても素敵な人だった。






(今日の仕事は…これで終わりか)

衝撃的な…いや、それはおおげさか…でも、私にとっては十分衝撃的だった入隊の日。
それから、書類仕事のいろはを学び、現世任務にも何度かついた。
最初は戸惑いもあったけれど、それでも徐々に慣れてきて、仕事も板についてきた。

「ん、あれは…」

終わった書類を抱えて、提出するために廊下を歩いていた時だった。
書類、と言っても今日の昼過ぎまで私は現世の駐在任務にあたっていたのでその報告書だ。
とりあえず、今日中に提出になっていたので少し急いでいたのだが…。

「おお、。ちょうどいい」

目の前にいたのは平隊員を統べる任を担っている席官の先輩隊員だ。
その席官の隊員は手招きをして私を呼んでいた。

「はい、ただいま」

報告書を抱えたままではあったが、呼んでいるのを無視するわけにはいかない。
走ってそこまで行けば、影に隠れる格好になっていた日番谷隊長がいるのも確認できる。
…影に、というのは席官の隊員のであって…それは身長が低い故なのだろうが、あえて言わない。

「これは…日番谷隊長。お疲れ様です」

「ああ。今、ちょうどお前の話をしていたところだ」

私の話、って。
そりゃ、仕事に関することに決まっているんだろうけど。
私…特に問題を起こした覚えはないし、なんだろう…。

「あの…私の話とは一体…」

「別に問題を起こしたとか、そういう話じゃない。お前、今日の昼過ぎに現世任務から帰ってきたよな」

…それは…今、報告書も持っているくらいだ。
初めての駐在任務は入隊から半年した一ヶ月前に言い渡された。
一応、しっかり虚は昇華したし、救援を呼ぶような事態にもならなかった。
一通りやることはやったから、成功といえるはずだ。

「普通な、入隊して半年ぐらいじゃ駐在任務なんて任せねぇんだよ…お前に任せたのは半分賭けだったんだが」

…そういうものなのか。
確かに同じく現世の駐在任務を任されていたのは私よりもだいぶ先に入隊した先輩ばかりだった。
それは今になって考えれば、の話であって、その時は何も思わなかったが。

「そう、なんですか?」

「ああ。入隊した時に言っただろ。お前には期待してるってな…だから、こいつに話をしていたところだ」

そう言って日番谷隊長が見たのは、私のことを呼んだ先輩隊員である。
平隊員を統べる役目を担っている彼は私にとって一番近しい上司になる。
隊長自身が平隊員に何か話がある時は彼を通すというのが普通なのだ。

「明日付けでお前は二十席に昇格だ。こいつを通して渡そうと思ってたんだが…直接でもいいだろ。これ、読んどけ」

報告書を持っている右腕とは反対の左腕には何かが書かれた書面を置かれた。

「これは報告書だな?預かる…それは今日中に見とけよ」

「は、はい!」

日番谷隊長は私から報告書を受け取ると、何事も無かったかのように去って行く。
残された私は同じく残された先輩に頭を軽くぽんぽんと叩かれた。

「ちゃんと見るんだぞ。…二十席にしては破格の待遇だ…も出世したもんだな」

「???」






さて、平隊員の詰め所へと帰って渡された書面を、小さく明かりを燈して読んだ。
細かい文字を一生懸命追っていくと、それは驚かずにはいられない内容だった。
それでも大声をあげずに済んだのは周りの平隊員に迷惑をかけまいという心理が無意識に働いていたからだろう。

「こ…こ…これは……」

その書面に綴られていた内容とは。
明日付けで私を十番隊二十席とすると同時に。
隊長付きの補佐官を兼任させるていうものだった。

「すご………っ」

これは好機だ。
平隊員であれば勿論のこと、席官であっても滅多にお目にかかれないのが隊長だ。
一目惚れとは言え、好きになったのは事実、この好機を逃すほど私は抜けているつもりはない。
隊長付きの補佐官など願ってもなれるものではない。
私は興奮覚めやらぬまま、とにかく明日遅刻するわけにはいかないので、床について無理矢理目を閉じた。






入隊して以来、近づくこともなかった隊長、そして副隊長のための執務室。
私はその前に言われた時間よりも10分早く来ていた。
いつも以上に念入りに寝癖を直し、入隊した時同様…もしかすればそれ以上に…緊張した気分で。

「…早いな、

「あら、ホント」

執務室の目の前でピンと背筋をのばして立っていると、後ろから声が聞こえた。
日番谷隊長と松本副隊長のものだった。
私は振り返り、慌てて挨拶をした。

「日番谷隊長に松本副隊長…お、おはようございます!」

「ああ。今日からよろしくな」

頭を深く下げた私の上からそんな日番谷隊長の声が降ってきた。
頭を深く下げているために表情を窺い知ることは出来ないが、それだけで幸せ。
………だったのだけれど。

「松本、先に入って仕事してろ。サボるなよ」

「はーい」

は俺と来い。仕事の説明もあるからな」

「はい!」

更にそんな言葉をかけられて、幸せは倍増。
仕事のうちとはいえ、初日から二人っきりになれるとは。
嫌われていることは無いだろうし、結構見込みはあるかもしれない。

「………」

「………」

しばらく無言で私たちは歩く。
まるで見た目は子供なのに、日番谷隊長は堂々と。
そんな隊長より年上に見える私は、逆に小さな子供のように。
例えるならば、小鳥のようにちょこちょこと日番谷隊長の後を追っていく。

「あ…あの…どこへ」

けれど、段々不安になってきて、ついに尋ねた。
隊舎から出てこそいないが、普段は立ち入らない場所まで連れて来られたからだ。

「…俺、お前に期待してるって言っただろ」

しかし、日番谷隊長から返ってきたのは答えではなかった。

「勿論、それは本当の話であって…お前の二十席の昇格も正当なものだ」

それどころか、私を更に混乱に追い込むもの。

「………だけどな、隊長付きの補佐官ってのは俺の独断だ。期待しているから、それだけじゃねぇ…」

日番谷隊長は私を振り返る。
そして、おそらく入隊してから初めて、しっかりと目を捕らえられた。
なんとなくではなく、しっかりと。

「何事にも一生懸命なに惚れた。だから傍に置きたくなった…それを言ったら、お前は補佐官をやめるか?」

最後の問い掛けに私は首がとれるのではないかというほど必死で横に振った。

「…そうか」

日番谷隊長は満足そうに言う。
そして、離れの隊首室を指差して。

「あそこが今日からのお前の部屋な」

平然と言ったのだ。






あなたはそんな理由をつけたけれど、
本当は好きだと思うコトに理由なんて要らないから






**あとがき**
頑張って構想やった割には不完全燃焼のような、そうでないような…。
今までに書いたことのないようなものを書きたかったんですけど…。
というか、短編の書き方を忘れているような気がしないでもない…。


※お持ち帰りは4/1〜4/30までフリーです。
貴方様のサイトに展示していただける場合は、「ツムギウタ」の双葉ミズキ作ということをどこかに書いてやってください。

また、もし報告をいただけたらお邪魔させていただきますので、迷惑でなければご一報お願いします。