手の届かない夢物語、だと思ってた。
神は少しだけ、現実に光臨なされた。
そして僕に微笑みかけてくれて。
興奮しながら、僕は会話をした。
運命が例え僕から未来を奪い去ろうとも、
この事実だけは、奪わせない。
この、幸せに包まれていた時間だけは――
彼を中央に。
私たちはシンメトリーをえがくように。
手を取り合って、並んだ。
貴女は生を、私は死を。
貴女は朝を、私は夜を。
役割は違うのに、役目は一緒で。
それが私の幸せで、ささやかな私の物語。
――Sound Horizon「朝と夜の物語」より――
僕は幸せだった。
例えるならば、遠足前日。
ふわふわと地に足が着かない夢を見て。
例えるならば、嵐の前。
静かで、しかし予感めいたものを感じて。
出来事は、起きる前が一番楽しい。
想像の翼はどこまでもはばたけるから。
僕は三本の琴線を心に引いた。
傷ついた時にいつでも対応できるように。
一本目が切れたら警告するんだ。
僕を怒らさないでね、と。
二本目が切れると感情が溢れだす。
僕が制御できることではない。
三本目が切れたらどうなるのか。
それは、僕も知らないこと。
ただ――
そのときに、僕はいられるのだろうか。
平坦な水面に嫌気がさした。
だから、僕は石を投げ込んで。
そこに広がる波紋を眺めていた。
波紋は普通を壊していく。
でも、壊された後の波も、また普通。
その定められた範囲を超えることなど、
人である僕にはできない相談で。
誰かの呼ぶ声が聞こえた。
誰かの泣く声が聞こえた。
どうしてだろう。
この美しい楽園に、
そんなもの聞こえるはずはないのに。
私は首を傾げた。
本当はね、知っているの。
でも私は、それを見たくないの。
この楽園が奈落だということを・・・
――Sound Horizon「エルの楽園 [→side:A→]」より――
箱庭を眺めて、微笑む。
僕が箱庭の神になったような気がして、
とてもとても、幸せになる。
どこまでも干渉する神。
たとえばものを動かして。
たとえばサイコロを振って。
そして、良くも悪くも干渉の中で――
この小さな箱庭は、動いていく。
そんな、偽りの、死んでいる世界。
見えざる色は、楽園の彼方に。
在らざる声は、地平にと風が運ぶ。
ほら、此方へおいでなさい。
貴方はその資格がある人です――
天と地からの呼びかけが聞こえる。
僕はどちらに答えればいいのか、
そんなことが分かるはずもなく。
体が軋む音がする。
慣れないことに悲鳴を上げている。
普段は硬く扉を閉ざして、
激しいことになど関わらないでいるから。
そう、哂った。
だけど。
例え痛もうと僕の体だから。
僕は体をいつくしみながら、
緩やかな眠りへと堕ちていくのだろう。
人は誰しも完全を求めたがる。
たとえば正三角形の均衡。
三角形をお書きなさい、そう言われたら、
大多数は正三角形を、理想を目指す。
だから、人間なのだとは思うのだけれど。
そう、理解してはいるのだけれど。
――その確率が1にならないことを、
僕はただ祈るばかり。
雨の匂いが残った夜。
目の前の道にもほとんど人影はなく。
そこは、とても静かで。
車の音もただ遠くに聞こえる。
まるで私だけが取り残されたような。
だけれど、世界は動いているの。
雨がほんの少しだけ降っていて。
人も車も、少しだけいて。
全然、隔絶されてなんかいない。
誰かが見ていた。
どこか、楽しそうな顔をして。
いつもの僕なら怖れているのだろう。
でも、今は怖くないんだ。
ひとりじゃないから。
彼がくれた言葉が、生きているから。
そこは何もかも逆な世界。
天が地になり、地が天になる。
そんな、水鏡に映したような世界。
私はそこに存在していた。
たったひとりだけ、さかさまにならずに。
たったひとりだけ、さかさまになって。
大事な大事な私のからだ。
大事な大事な私のこころ。
それらがまだ私に残されていることに哂って。
もう二度と――
「誰にも、渡さない」
見下ろす彼に大きく手を振って、
――私は、瞳を閉じた。
甘い、甘い味が広がる。
私はふわりと微笑んだ。
だけれどちょっぴり苦い味。
どうしてだろう。
私は毎日が楽しいはずなのに。
どうしてだろう。
私は人生が楽しいはずなのに。
甘すぎて、どこか痛かった。
しとしとと雨が降っている。
雨を見ているのは好きだ。
空の贈り物を楽しむことができるから。
でも、雨の中歩くのは嫌いだ。
自分のもとにまで影響が及ぶから。
やっぱり、僕は傍観者でいたい。
世界がそれを許してはくれないのだけれど。
僕はどれだけのものを操っているのだろう。
僕はどれだけのものに操られているのだろう。
僕が世界にいる限り、
何も影響を与えないことは出来なくて。
僕が世界にいる限り、
何も影響を受けないことは出来なくて。
操って操られて、その繰り返し。
その波の中で何かを掴めればいいのだけれど。
始めは真っ暗だった。
闇の中で僕はたゆたっていた。
そこに光が降ってきた。
明暗がある世界を僕は知った。
閉じられていた目を世界に開く。
見えたのは翼を持った神々しい――
瞬間、僕は天を仰いだ。
どこか変わっているようでいつも通りの世界。
それに、首を傾げて。
奏でられる音が少しだけ違うような気がする。
それに、首を傾げて。
僕には分からない。
どうして違和感を感じるのか。
僕には分からなかった。
どうしてこんなにも、寂しかったのか。
ああ、そうか。
この世界には、彼がいないのか。
ひとりが見たのは孤独な世界。
ひとりが見たのは完結した世界。
ひとりが見たのは楽しい世界。
ひとりが見たのは無意味な世界。
やはり、感性などあうはずもなく。
やはり、個人を感じることが出来て。
あとには隔絶が残った。
どうせなら叶わない位遠くの夢を。
どうせなら近づけない位憧れる人を。
どうせなら分からない位蔓延る世界を。
追いかけてみたい。
きっと結果は、二進数では表せないから。
過程の発展を夢見て、追いかけていけるから。
だから、僕は走っていく。
欲しかったのは、正当な対価なのに。
でも彼はそんなもの持っていなくて。
彼自身が何を出来るかを知らなくて。
とてもあげられない、と首を振った。
僕は賛美が欲しいのではないのに。
ただ、僕のことを認めてくれればいい。
ただ、笑顔を見せてくれるだけでいいのに。
落ちそうな瞼をこすって、目を開ける。
黒板には雑然と文字の羅列が並ぶ。
――分かりにくい。
呟いて、また落ちそうな瞼を知覚する。
今度はもう、知らない。
消極的な選択肢を選ぶか。
幾分か積極的な選択肢を選ぶか。
積極的な選択肢は、もう残っていないから。
二つを天秤にかけて、比べてみた。
また、不確定が生じた。
当たり前のように目の前に居座るそれ。
たまには払いのけないで、
しっかりと見てみようと目を凝らす。
渦巻いている色が見える。
はっきりした色が何一つなく、
それでも全体で色を形作っている。
掴もうと手を伸ばすとすり抜けそうな、球。
きっとこれにも何か意味があるのだろう。
そう思って、僕は手を引いた。
きらきらと輝く時の欠片。
僕はそれを、両手に捧げ持った。
ひとつの欠片は僕の過去へと。
ひとつの欠片は僕の未来へと。
欠片は鳥になって、飛んでいった。
それを押し出して、僕は微笑った。
最後の欠片は僕の心へ。
現在へと捧げよう。
見えていた未来。
分かってたこと。
今になったことたちを眺めて、嘆息する。
僕も向こうの輪に入れたらいいのに、と。
どうしてだろう、一度は諦めたはずなのに。
どうしてだろう、これが最善の選択なのに。
すぐ隣なのに、羨ましいと思うなんて。
少ない人たちと手を取りあって、
僕は今日も歩いていく。
まわりが変わっていくのを感じながら、
僕は今日も歩いていく。
変わることがたくさんあって。
それでも変わらないことがあって。
そんな路を、僕は歩く。
少しずつ変わっていくことに実感はなく、
大きな変化だけを見据えている僕。
そんなこと、見ていなくたって気づくのに。
違うところに労力を費やせば、
幾らだって楽しいものを見つけられるのに。
だから僕は、変化に背を向けよう。
だから僕は、日常に目を向けよう。
小さな幸せを、この手に掴み取るために。
たとえば黄昏に頬を照らされている、
彼に向かってシャッターを切った。
たとえば暗闇の中で目を閉じている、
彼に向かってシャッターを切った。
機械が捉える色合いはそのままに、
捉えきれない色合いをパレットに乗せて。
そして、薄く薄く重ねよう。
ひとつでは成し得ない色が、広がるように。
めぐるめぐる。
僕の周りで、色々なものが。
めぐるめぐる。
僕の中で、色々なものが。
めぐるものに手を伸ばすけれど。
届かなくても構わないと、哀しそうに微笑む。
だけど伸ばさないと何もはじまらないから――
だから、僕は求めるんだ。
またひとつ、花が咲いた。
僕という庭師は、それを眺めるだけだけど。
それでも、微笑ましいと思う。
ゆらゆらと揺れている花たち。
形も色も、同じものなんか何一つない。
彼らが互いに似ようとする光景に、
少しだけ目を閉じていたくなって。
また目を開ければ、
変わらない花たちが迎えてくれるというのに。
目の前に広がっている闇に抱かれて、
僕はとても安心している。
様々な色彩の黒に囲まれて、
僕はその中心でそっと微笑った。
遠いあなたも、この僕も、
この続いている闇のどこかにいるのだから。
だから、僕は想い続ける。
たとえあなたがどんなことを言ったって、
今日一日だけは全てを許そう。
たとえあなたがどんなことを犯したって、
今日一日だけは全てを許そう。
神様のサイコロが振られて出来た、
この気まぐれな日ぐらいは、
僕は全てを許していよう。
たとえそれが破滅に繋がろうとも。
この世界は異常と普通で出来ているから。
異常な私は普通に関わらないようにした。
だけど、彼にかき回されて。
私とシキは翻弄された。
――そしてシキはいなくなった。
殺人を好むこの私は、
開いた穴をどうすればいいの?
――「空の境界」より――
世界の深淵を見るように。
人間の内面を見るように。
無意識に、生きてきたんだ。
そうでもしないと、
シキは狂ってしまうから。
全てのものに纏わりつく「死」を、
シキは見据えてしまうから。
だから、魔眼で表面を見ないようにと。
――「空の境界」より――
また、白くなった。
動きにくいこの場所で、僕らは足掻く。
それは何かをやっているから?
問いが頭に響く。
いいえ、と自答して、ふわりと微笑む。
そうでなくてもいる人たちは、
たくさんここに集まっているでしょう?
もう少しだけ。
もう少しだけでいいから、と。
また、僕は祈ろう。
たとえ何も期待されてなくても、
きっと待っている人がいてくれるから。
だから僕は詠おう。
たとえそれが夢物語でも、
きっといつか現実になると信じているから。
だから僕は詠おう。
――夢と現実の狭間で。
いろいろなものを掴もうとして、
いつしか手には何もなくなった。
いろいろなものをただ見ていると、
いつしか手にはたくさん掴んでいた。
どうしてだろう、
望んでないことしか起こらないのは。
どうしてだろう、
自分の心など簡単には動かせないのに。
どうしてそんないやそうな顔をするの?
―ああそう、皆と同じことが出来ないから。
皆と同じところまでたどり着けないから。
そんなどうしようもないことで悩んでいたの。
君はそれをやれば、皆に追いつけるでしょう?
だからこその作業でしょう?
それを放り出して嘆くんだ?
なんて、傲慢なひと。
この世界は理由で成り立っているのかい?
そう、僕は首を傾げざるをえない。
理由なんてないことが、たくさんあるもの。
たとえば生きていること。
たとえば死にゆくこと。
たとえば自分という存在。
――これらの何処に、理由があるの?
それらの理由を探そうとすることは、
すでに僕らの傲慢なのではないのかな?
慰める行為になんて及ばない。
そんな「普通」は、僕は嫌いだから。
だから僕はただ眺めてる。
「普通」だと思っている人たちが、
「異端」だと思いたい人を慰めることを。
そんなことしなくたって、
全てが異端で全てが普通なのに。
予測していたように返ってきた返答に、
やはり僕はこう投げつける。
時折触れる他の世界に、
やはり僕は関わっていたいから。
皆は僕に普通を押し付けようとするよね。
僕は僕の基準で、「普通」だと思ってるよ。
ただ、それが皆の基準に合わないだけ。
たとえば――
僕にとっては、ノートの左端は揃わないもの。
目視することなんて不可能だからね。
それでも、それが僕の「普通」なんだ。
普通であるということ。
それがどれだけ難しいことか。
――君は、理解しているかい?
僕が何処にいようと空気は流れて、
僕が何処を見ようと空気は動いて、
僕が何処を聴こうと空気は囁く。
この世界に関係したいのは僕の傲慢?
それでも僕はここにいるから。
―少しだけ、この世界をかきまわして。
それで僕は満足に浸るんだ。
すぐそばに寄り添っていたかった。
だって私にとって、貴女は人だから。
まわりの皆を疑うしか出来ない世界でも、
あなた一人だけは、信じていたかった。
私には聞こえたもの。
あなたは人だって。
―どうせ疑心暗鬼になるのならば、
私はあなたを信じます。
僕らは今、色々なものを持っている。
それに気づいているかい?
―なくしたら嫌だと感じるものばかり。
でも、少し考えてみないかい?
それは持っていない人にとっては、
「当たり前」の事実しか広がっていないんだ。
所詮人間は自分の世界でしか測れないから、
どうしようもないことかもしれないけど。
僕だって、何かできるわけではないもの。
―変えることは出来ない。
けれど、変わる道だけは提示しよう。
謝罪が聞こえる。
僕が求めているのはそんなのじゃないのに。
そう、不機嫌な顔をしていた。
だからまた、謝罪が聞こえた。
―謝らなくていいよ。
そんな一言を言いたくなかったから、
もうしばらく黙っていることにする。
手を伸ばせば届きそうな所にそれはあった。
僕は無関心にそれを見ず通り過ぎていった。
気がついたら崩落していたひとつのかけら。
堕ちたことの断片すらも、僕は掴まなくて。
そんなことがあったの初めて知ったと呟く。
初めて、遠いと知った。
初めて、分からなくなった。
見ているようで、何も見ていない。
笑っているようで、本当は笑ってない。
そんな僕が、ここにいた。
パッチワークを作ろうと、材料集めに出た。
たとえば電車とホームの間に足を挟む偶然を。
たとえば時間の可逆という超越を。
たとえば花が早く咲きすぎる変化を。
たとえば少しだけ引っかかる不合理を。
そんなものを全て集めて、僕は作る。
新しい世界という名のタペストリーを。
私たちは異端だった。
でも、何も怖くなかった。
私は独りじゃなかったから。
―そう、あの日まで。
事故にあって、私は彼を失った。
きっと私の代わりに逝ってしまったのだろう。
その日から私は、不安定な独りになった。
そして、
私の身に巣食う感情に、やっと気づいた。
ふろむ「空の境界」式サイド。
水鏡に映る世界を見た。
それはひどく歪んでいた。
一つ小石を投げ入れる度に消える世界。
その儚さに、僕は捕らわれた。
手の届かない夢物語を眺めて。
それでも、それはここに存在するのだから。
決して二律背反などではなく。
―だから、僕は恋したんだろう。
喜んでいる隣に、落ち込んでいる君がいた。
どうしてそんなに沈んでいるの?
君はただ首を振るばかり。
―僕のことを、巻き込めばいい。
そうすればその哀しみは半分になるから。
僕は君に喜びを与えよう。
そうすればその喜しさは二倍になるから。
だから―お願いだから、僕に話して?
僕が一番怖いのは、
筋どおりに進んでいる物語。
僕が作り出した世界の中で、
僕が考えた行動の中で、
ずーっとずっと動いているなんて。
・・・そんな怖いもの、見ていたくない。
だから僕は、
僕の手から離れていった物語だけを、
愛するようになっていた。
月夜に見えたのは、誰の影?
足音が聞こえるたびに驚いて。
人影が揺らめくたびに驚いて。
びくびくしながら生きている。
―そんなこと、もう止めたい。
そう思って走った方向は、
やっぱり何か間違っているけど、
―僕にとっては最適な手段で。
一分なら、扉を叩ける。
だけど十日なんて。
十日経った。
僕はそう信じて、扉を叩く。
真っ暗な部屋で、もう時間も感じない。
だけど、五分間違ってたら扉は開かないから。
僕は救いを求めて、扉を叩く。
向こうから、笑い声が聞こえた気がした。
夕暮れ時の公園。
聞こえるのは子供たちの笑い声。
そして、歌声。
何気ない童謡だったはずなのに。
夜の帳がおりてきたこの世界に、良く響いた。
近づいてくる闇と歌声。
逃げ込んだ先はさらに深い闇の中。
動く波に飲まれかけた。
動く人に飲まれかけた。
怖くて怖くて、もう外なんか居たくなくて。
僕は閉じこもった。
大きな硝子窓から、外を見てた。
まだ動いている。
それでも前ほどは、怖くなかった。
だって僕は今、ただの傍観者だもの。
君には見えないの?
あの、狂気じみた足跡が。
―僕には見えてしまうんだ。
良かったね、君には見えなくて。
きっと君は狂わなくてすむから。
それじゃあ―ばいばい。
オ シ ア ワ セ ニ。
遊戯盤の上で動き回って。
私は欠片を集めていく。
少しだけ他人とは違うのだけれど、
でもやっぱり私は人間だから。
ちょっとずつしか紡げない。
百年を生きた魔女、でもまだ若い。
それでも――
奇跡は起こすもの、そう学んだから。
「僕は、諦めないのですよ?」
くるり、と包帯を巻いて。
偽りの安心に浸ってみる。
たとえ頭で偽りだと分かっていても、
心はそれで落ち着くから。
そして、また縋る。
自分に縋りついて、また前を向こうとする。
もう片方の手で包帯をいじりながら。
道で彼女とぶつかって。
ふとした出会いに微笑んで。
見ているところが同じだと、また笑って。
そうやって笑っていければいい。
楽しい日々を、いつまでも思い出にしようと。
そうして僕は笑っている。
今日も明日もいつまでも。
どうして?
――どうして?
どうして僕の言葉を繰り返すの?
――どうして僕の言葉を繰り返すの?
だからそれをやめて欲しいと言っている。
――だからそれをやめて欲しいと言っている。
僕は諦めて、黙ることにした。
――くすくすくす・・・いい判断だね。
それでも僕は君に、怒りを植え付けよう。
盲目の少女と、黒銀の犬。
深い絆で結ばれているように見えた。
荒野を歩く死神は、
罪人を何処へ連れ去るのだろうか。
薄氷色した眼を開けて、
少女は何処へ連れ去るのだろうか。
――Sound Horizon「澪音の世界」より――
水に映った景色が見えた。
風に吹かれて揺らいでいった。
僕は景色を触ってみた。
波紋が出来て景色が消えた。
触った手をどけて僕が映らないように眺めた。
現実で、そして現実じゃない世界が広がる。
そんな儚さを、僕は眺めていた。
色が動く。
光がちらつく。
僕の周りを楽しそうに飛んでいる、
洪水のようなイルミネーション。
嫌いじゃないよ、見ているのは。
ただ、手を伸ばす気が起こらないだけで。
また痛みが襲ってきた。
僕が何をしたというの?
きっと僕が気づいていないだけで、
痛むようなことをしたのだろうけど。
痛んで当然のことをしたのだろうけど。
・・・だけど、やっぱり痛いんだ。
助けなんて、求めないから。
クッキーを食べつつ、
僕の友達に思いをはせる。
ああいい人たちだな、としか思えないのは、
思考が固まってしまったからだろうか。
それでも肯定だから、まあいいか、と思う。
すべての人に、感謝の言の葉を――
世間がときめくこんな日に、
僕は何を求めているのだろうか。
世間が沸き立つこんな日に、
僕は何を考えているのだろうか。
世間がたのしむこんな日に、
僕は何を怖れているのだろうか。
傍観者からの視点では、ものごとは語れない。
だから、今日一日だけは、
世界に、組み込まれていようか。
楽しめるこの日を、空に祈って。
憧れて。待ち望んで。
そんな想いを、抱いていて。
そんな人に、僕は会えて。
幸せだな、そう思う。
他に思いを抱くたくさんの人。
その、一握りに僕がいる。
僕は手放しで喜んだ。
こんな機会は、滅多にないから。
ふわり。
青白く光る球体が、僕の目の前に浮いている。
包み込んでみる。
ふわり、と手から逃げていく。
僕は球を追いかけていった。
球はどこまでも逃げていった。
だからといって、僕は諦めないよ。
全てを無に返すことだけは、したくないから。
幻聴だろうか――
笑ってるこの歌声は。
幻視だろうか――
前に見るこの奈落は。
幻影だろうか――
揺らいだこの四肢は。
幻想だろうか――
抱いてたこの想いは。
あれもこれも全て、幻だろうか――
意識しか残っていない、この僕の。
青い蒼い空。
いつまでも見上げていたくなるような。
広がっている色と、
世界に吸い込まれそうになる自分と。
そんなものを超越して、空は僕を見ている。
―傲慢だろうか、見ているだなんて。
だけれど、僕はそうあってほしいから、
空に対して役目を与えた。
ずっとずっと、僕を見ているといい。
文字をなぞる。言葉をなぞる。
物語という世界が出来上がっていく。
他人が作った世界の中で僕たちは彷徨う。
時には笑って、涙して。
それでも、創られた世界は好きだから。
だから今日も、僕は世界を彷徨う。
僕に響く言葉を、探しながら。
何か見えた。
寄ってみた。
触ってみた。
舐めてみた。
笑ってみた。
離れてみた。
泣いてみた。
何をしたって、僕が変わるだけ。
「それ」はただ待っているだけ。
心地よい波に揺られる。
自然と、笑みが溢れた。
それは波が望んだこと。
だから、私は笑うんだ。
――自分の心に正直に?
そう・・・己には、嘘が付けないから。
だけどもう少しだけ、ただ笑っていたい。
俺が好きな飛行機乗りさん。
とても格好いい戦闘機乗りさん。
たまにあなたの感性に、
突っ込みたくなるところもあるけれど。
それでも。
俺の目の前で泣いてくれるのを見ると、
どうしても、可愛いと思うんだ。
――「クジラの彼」
ファイターパイロットの君より――
「もう待てない」
そう言われて、会いに行ったけど会えなくて。
待っていてなんていう言葉は届かなくて。
長い、長い時間。
いつしか彼女は去っていった。
・・・俺はまた、待たせる立場。
だけどあいつは、きっと待っててくれるから。
そう信じて、言葉を投げた。
あと一年だけ、待っていてくれ。
――「クジラの彼」脱柵エレジーより――
また今日も、彼女と喧嘩して。
些細なことで始まる口論。
・・・でも、泣かれるよりはよっぽど楽だから。
一生こんなことで喧嘩していようぜ。
そう、笑いながら言った。
いろいろなことが廻りだして。
俺は有能な彼女に振り回されるだけ。
もう少し、俺のことも考えて欲しいけど。
・・・だけど、それでも俺は幸せなんだ。
――「クジラの彼」有能な彼女より――
ふらり、ふらり。
何も考えず、ゆったりと漂う。
深い深い闇の中、色が広がるセカイを見つける。
僕は眺めているだけでシアワセだった。
僕の瞳の色を覗き込んで、彼は微笑った。
・・・それは、その輪に加われば、もっとシアワセってことだよね?
今までずっと、傷ついてきた。
もうやめよう、なんて考えられなくて。
そしていつもいつも傷ついて、貴方にあたった。
貴方にだけは裏切られたくないから。
・・・もう私は壊れたくないから。
だから。
あの置き手紙を見たそのあと、
あなたに電話して。
――「クジラの彼」国防レンアイより――
私はただ、上からものを押し付けていた。
彼がそのことを教えてくれた。
・・・少し、荒療治だったけれど。
それでも私は感謝してる。
たとえこちらで一人になっても、私は戦うよ。
そしたら貴方も戦ってくれると分かったから。
ロールアウトまで、ずーっと戦う。
そしたら私は・・・
――「クジラの彼」ロールアウトより――
今日も、潜水艦は潜っていくよ。
まるでクジラみたいに。
私はね、潜水艦が沈まないように祈っているの。
沈んでしまったら、彼は帰ってこないから。
でも、彼を引き留めることはしない。
私は、クジラに乗っている彼が好きだから。
――「クジラの彼」表題より――
君がそこにいるから、
僕もここにいるんだ。
君がそこで笑うから、
僕もここで笑うんだ。
もし君がそこで泣くのなら―
僕は、君を慰めてあげる。
そして、また君と一緒に笑うんだ。
いつも色が溢れていた風景。
気づいたら、真っ白で。
何もいない、何も見えない。
そんな不安の囁きが聞こえた。
天から声が降ってきた。
だからどうしたの?
あなた方なら、待ち続けられるでしょう?
この世界に色が帰ってくるまで・・・
白い世界に思いをはせればいいのに。
いつかきっと、思い出になるから。
だから―
僕は、白に祈ろう。
ずーっとずっと、何かを見てた。
それがなんだか知らないけれど。
ずーっとずっと、何かをしてた。
いつまで続くか知らないけれど。
ずーっとずっと、何かを哂った。
どんな気持ちか知らないけれど。
ずーっとずっと、何かを感じた。
意味があるのか知らないけれど。
ずーっとずっと、何も知らない。
だからこそ世界を見ていないと。
落ちて堕ちて、どこまでも深く。
笑って哂って、闇に委ねる。
ソンナ、モトメテイルセカイナド――
イッタイ、ドコニアルノカイ?
見かけたその色は僕と違う色。
だから僕はそれに惹かれる。
そんな思いと言の葉とが。
大空に届けと祈ってる。
某所というのが何処だかは突っ込まないこと。一日一本。
上に行けば行くほど新しいのだよ。
▲