雨が降っている。
いつからか、僕はずっとこの世界を彷徨っている。
僕と前後してきた人たちは、もういない。
皆狂って死んでいった。
・・・どうしてだろう。
この雨の何処が、怖いというのだろう。

いや、言い方が違うか。
僕は恐怖を欠落している。
作られた時か、事故の後か、そんなことはどうでもいい。
僕は恐怖を感じない心しか持っていないのだ。
本能でさえ、恐怖は分からない。
だからこそ僕はこの世界で生きている、最近それに気づいた。

現代の単調の中に、現れた追憶の時。
僕が少女に会ったとき、そう感じた。
瞳を閉じた少女と、付き従う黒銀の犬。
彼女たちは遥かな昔から絆で結ばれているのだろう。
現代の町並みを、颯爽と歩けるぐらいなのだから。

僕が眺めていると、彼女は首を傾げた。
そして、眼を開けた。
・・・薄い氷のような色をした、綺麗な瞳。
右手に持つ赤い紐との対比に目を奪われて、次の瞬間――
僕は、荒野にいた。

はじめのうちは、この世界に居ついた人の観察をしていた。
ほとんどの彼らは壊れていた。
彼らは雨が怖いらしい。
僕にはそれが分からないけれど、生きていけるように雨風をしのげる廃墟に居ついた。
お腹が空くと、そのあたりに転がっている肉を食べる。
水はいつも降り注いでいるから、問題はない。
そうして、僕はこの荒野で生きていた。

最近は外を出歩くことが多くなった。
僕が微笑って首を傾げると、彼らは慌てて逃げていく。
それは、壊れない僕が異常だからだろうか。
それとも、僕の瞳が、いつの間にか薄氷色になっていたからだろうか。

・・・あの少女は、澪音というらしい。
誰かに訊いたわけではない。
僕の瞳を見るたびに、彼らはうわごとのように繰り返していたから。
澪音は僕には名前を教えてくれないのだね。
あの雨の中にでも、含まれているのだろうか。

澪音の瞳には、世界が映るという。
僕の瞳には、世界なんて映らない。
彼らはそれに絶望して帰っていくようだ。
・・・だけれど、いったい何処に帰る場所があるというのか。

僕は今、色々なことを知っている。
傍観者が面白がって、僕に知識を植え込んでいったから。
その知識をここで披露するのはやめよう。
僕には、人が壊れる境目が分からないから。

もしも澪音に会えたら聞いてみたいことがある。
僕の罪はなんなのか、と。
恐怖の欠落自体が罪なのかもしれないし、
そうなって何も努力しない僕自身が罪なのかもしれない。
だけれど、そんなことより――
もう一度だけ、あの綺麗な瞳を眺めてみたいんだ。

僕は空を見上げた。
降り止まない雨の、その向こうを見据えるように。
ほんとうの空の色が見えるまで、僕はここにいようと思う。
あるいは僕がいることで雨は降り続けるかもしれないけれど。
でも、この場所からは出たくない。

この澪音の世界の空ならば、
彼女のように綺麗だと、そう、信じているから。









・・・こんなんでいいですか。僕は眠いです。おやすみ。