文学史 一学期中間範囲
小説・評論
近世から現代へ  明治初年から十年代
  移行期の文学
   江戸末期からの伝統的手法によって明治の新風俗を書いた戯作に、
   文明開化の洪水の中から生まれてきた翻訳小説
   自由民権運動の隆盛を母体にした政治小説が加わる
   近代文学出発の外的用件
   活版印刷および新聞の発達
   学校教育による識字人口の増加
    →読者層の全国的拡大

  仮名垣魯文
   「西洋道中膝栗毛
   「安愚楽鍋
   いち早く文明開化の時流に乗る
   「高橋阿伝夜叉譚」

  政治小説
   作者の政治主張を偽作的趣向に託した寓意小説
   外国の革命文学の翻訳・翻案で始まった政治小説
   矢野龍渓経国美談」 ・・・古代ギリシアの歴史
   東海散士佳人之奇遇」 ・・・世界の弱小諸民族の悲劇
   末広鉄腸雪中梅」「花間鶯」 須藤南翠「緑簔談」 ・・・写実性
    政治は風俗的なレベルに後退

  「小説神髄」 坪内逍遥
   内容 「仮作物語」の歴史を
      荒唐無稽な「ローマンス」から写実的な「ノベル」へ
      「人情世態」の「模写」を軸にする写実主義の立場
      小説を「改良進歩」させていく方策
   意義 「大人、学者」の鑑賞に堪えうる価値の存在を論証
      近世戯作の勧善懲悪的な功利主義を排する
      政治小説が可能性として内包していた文学の思想性をも排斥
       →近代小説の発展に一種の狭さを付随させる理論的基礎を築いた









近代の出発  明治二十年代
  1887
  二葉亭四迷浮雲
   …近代小説、言文一致
  1889
  二葉亭、文壇から姿を消す
  山田美妙、国粋主義的風潮の中で精彩を失い始める

  森鴎外舞姫

  20年代中、後半
  尾崎紅葉を総帥とする研友社の風俗写実主義
  幸田露伴の東洋的浪漫性

 ・文芸批評の成立
  文芸批評が文学の一ジャンルとしての地位を得た
  石橋忍月、内田不知庵、北村透谷らの批評家
  反近代の立場に立った斎藤緑雨
  評論専門雑誌「しがらみ草紙」の主催者森鴎外と、
  「早稲田大学」に拠った坪内逍遥との間で行われた
  「没理想戦争

 二葉亭四迷
  ロシア文学に範を仰ぐ
  広い社会性と生き生きした形象性との統一の実現を目指す

  「浮雲」長編小説
   日本文明の裏面をてらし出す
   言文一致体創始者としての文章上の苦しみ

  「あひゝ゛き
  「めぐりあひ
   …ツルゲーネフの原作を抄訳










 初期の鴎外
 ドイツ三部作
  1888年ドイツから帰国
  ヨーロッパの近代性と日本の前近代性との距離
  「舞姫」雅文体の手記形式
  「うたかたの記」
  「文づかひ」
   …近代的自我の問題を浪漫的な情感に包んで提出

  中心は「戦闘的啓蒙」活動にあった
  「しがらみ草紙」創刊 …日本で最初の本格的文芸評論雑誌
  西欧の名作の翻訳紹介

 没理想論争
  鴎外 …「標準」「理想」重視
  逍遥 …「帰納的理想」「没理想」論
  論争は実質的な実りのないまま終了

 ・紅、露の時代
  尾崎紅葉 …山田美妙が抜けた後の研友社のリーダー
   「二人比丘尼色懺悔」井原西鶴の影響を受け元禄文学的色調
   国粋主義的機運に乗り文壇の主導権を握る
  幸田露伴 …紅葉の華麗さとは対照的に東洋風の雄渾な作風

 ・北村透谷と「文学界」
  「厭世詩家と女性」 …恋愛賛美の思想を大胆に主張
  1893、島崎藤村や上田敏らと雑誌「文学界」創刊
  「人生に相渉るとは何の謂ぞ
  「内部生命論」
   などの力作評論を次々に発表して同人全体をリード
   浪漫主義文学運動の拠点











「社会」と「自然」  日清〜日露戦争の時代
 資本主義が本格的な発展期に入ると同時に、早くもその矛盾を露呈し始めた

 ・社会矛盾の追求
  樋口一葉 …底辺の女性の悲哀を描いた小説
  広津柳浪ら「悲惨小説
  泉鏡花、川上眉山ら「観念小説
   …日清戦争直後の文壇にブームを呼ぶ
  田岡嶺雲 …評論家、上を支持する

  現実の社会的矛盾に肉薄する「社会小説」を望む声が高まる
   尾崎紅葉「金色夜叉」
   徳富蘆花「不如帰」
    記録的なベストセラーになる

  現実の科学的、客観的観察を掲げるゾライズムの影響をうけた、
  小杉天外永井荷風の作品が注目を集める

 ・自然描写の系譜
  「自然」に対する文学的関心が強まった時期でもある
  徳富蘆花 「自然と人生
  国木田独歩武蔵野
   などの散文詩風自然文学が生まれる
  独歩はその後「ありのままに見、ありのままに書く」と言う意味での
  自然主義に接近



















 樋口一葉
  日本最初の女流職業作家
  「大つごもり」で文学的才能を開花
  「たけくらべ」 …遊郭を舞台にした少年少女の淡い恋
  「にごりえ」  …私娼の満たされぬ胸の内をつづる
   →生活体験から紡ぎだされた

 ・泉鏡花
  紅葉の門人として出発
  悪を憎む正義感をモチーフ…
   「夜行巡査」「外科室」
  「海上発電」などの観念小説を書く
  若く美しい母への思慕をモチーフ
   「照葉狂言」「荒野聖

 ・社会小説
  明治30年ごろ「社会小説」論
  悲惨小説や観念小説の不自然さを脱却して
  社会の本質に迫る新しい小説の出現を要求
  徳富蘆花不如帰」 …嘆声に主題を凝縮
      「黒潮」  …鹿鳴館時代の政界の内幕
  尾崎紅葉金色夜叉」…金の力に復讐
   →当時の社会矛盾…
     封建制を残存させたままで急速に進められていた
     資本主義の発展から生じた矛盾
    が反映されていた

  明治30年代後半
  木下尚江「火の柱」「良人の自白」を発表
   社会主義小説の先駆をなす