文学史 一学期期末範囲
自然主義
日本自然主義の出発
青年時代に浪漫的な詩を書いていたことのある三十代の作家を中心にして起こる
封建的な諸伝習に対する違和感を基礎にしながら研友社的な小説観を否定
「排技巧」「排理想」の客観描写の主張
激しい自己告白の欲求
初期に見られた反抗の情熱が失われ「観照」が主流に
「事実」偏重の方法論
→「私小説」に道を開いていく
日本自然主義の性格
島崎藤村『破戒』、田山花袋『蒲団』
…自然主義時代の到来を決定付けた
島崎藤村『春』『家』
田山花袋『生』
徳田秋声…主義、主張をまったく持たない作品
正宗白鳥…「生え抜きの自然主義作家」
岩野泡鳴…「芸術即実行」の「新自然主義」
島崎藤村
『文学界』から出発した『若菜集』の浪漫的叙情詩人
→散文の方向へ
『千曲川のスケッチ』…小諸の教師時代に書き続けた写生文
「千曲河畔の物語」と総称される短編群
『破戒』
部落差別という社会小説的要素と
自己告白の恐れと欲求を主人公に仮託した内面小説要素が並存
『春』、『家』でリアリズムの追求
→社会小説への可能性の放棄
田山花袋
ゾライズムへの系統と叙情詩人的資質との並存
『蒲団』
女弟子に寄せるひそかな恋情を描く
『生』『妻』『縁』…自己とその周辺の事実を「平面描写」でかく
徳田秋声
研友社、紅葉門人
自然主義定着時代に入ってから「生まれたる自然派」と呼ばれた資質が開花
『新所帯』…平凡な庶民夫婦の日常生活
『足迹』…妻の前半生を素材に
『黴』…足迹の続編的性格を持った身辺小説
『爛』、『あらくれ』
「首もなく尾もなくあらはな結論のない」庶民の現実を、
「ただ在りのままに」淡々と描述していく
島村抱月
ゾライズムから移行してきた批評家長谷川天渓
→「幻滅時代」「現実暴露の悲哀」で自然主義の意義と特質を説明したが
理論性に欠けていた
その欠陥を埋める新しい批評家として登場
『早稲田大学』による
美学的知識を駆使し自然主義を理論的にリードした
『文芸上の自然主義』『自然主義の価値』のに論文を初めとする評論活動
抱月の自然主義理論
無解決無理想主義である意味での現実主義という定式化
芸術の根本を「観照」に見出す
漱石と鴎外 森鴎外の「豊熟の時代」と呼ばれる作家的最盛期
特質と共通点
漱石…薄幸な少年期を過ごし反感的な気骨を貫く
鴎外…国家官僚の養殖を歴任し官側の人間であり続けた
いずれも自然主義とはっきりした距離を持ちながら、
文明批評的な視野の広さと豊富な教養による質の高い創作活動
自我の苦悩を日本の性急な近代化のゆがみの中に認識
夏目漱石
初期作品
『吾輩は猫である』…奇抜な風刺小説
「余裕派」←自然主義の生き方とは異なる作風のため
『草枕』…「非人情」の超俗的な美への憧れ
『坊っちゃん』…社会的正義感を前面に押し出す
『虞美人草』…朝日新聞社入社第一作
前期三部作
『三四郎』…青春小説、「偽善」や「露悪」の問題
『それから』…諧謔性を排す 知識人が愛を貫き生活基盤を失う
『門』…上の後日譚 本当の充足を得ることができない様
虚構の設定内で偽善と誠実のテーマを鋭く追求した
後期三部作
『彼岸過迄』…「人間存在の深所」に迫る
『行人』、『こゝろ』でさらに掘り下げる
『道草』…初めての自伝小説
『明暗』…夫婦間の心理葛藤とその救済の道を探る
森鴎外
豊熟の時代
『半日』で文壇に復帰
『ヰタ・セクスアリス』…自然主義的な人生観に対抗
『懇親会』…作者自身の身辺の事実
『普請中』…「ここは日本だ」
『青年』…漱石の『三四郎』を意識した長編青春小説
『雁』…自我に目覚めかけた女主人公の挫折
「あそび」や「レジグナチオン」といった静的な世界観
→大逆事件後いっそう深まる
『かのように』から『鎚一下』…鴎外の苦悩と諦観
歴史小説から史伝へ
『興津弥五右衛門の遺書』『阿部一族』以降歴史小説に転じ、
『山椒大夫』『高瀬舟』などの名作を発表
『渋江抽斎』から「歴史其儘」を徹底
→『伊沢蘭軒』『北条霞亭』などの史伝
耽美派
自然主義…「真」のみを強調
耽美派 …「美」に重きを置く
『スバル』やサロン「パンの会」に拠った青年詩人たちも含まれる
永井荷風…外遊生活からの帰国後反自然主義者に
谷崎潤一郎…荷風の推挙によってデビュー
永井荷風
『あめりか物語』…自然主義作品としての扱いを受ける
『ふらんす物語』『歓楽』は発禁になる
「江戸」賛美の文学
『新帰朝者日記』『すみだ川』『冷笑』などの作品を発表する中で
「江戸」の賛美という反時代的な美学へ
『三田文学』の主宰者
花柳界を舞台にした『腕くらべ』、『おかめ笹』
谷崎潤一郎
『刺青』『麒麟』…『新思潮』の同人時代
『少年』…『スバル』の同人時代
『悪魔』を発表して以来日本における「悪魔主義」の代表作家に
肉体への肯定と賛美に立って特異な耽美的世界が繰り広げられている
白樺派
明治の終わりとともに自然主義は停滞、退潮期へ
『白樺』…武者小路実篤、志賀直哉、有島武雄、
長与善郎、里見クら
学習院出身者であり、「自己を生かす方向」に進んできた者が多い
大正前半の文壇の最主流となる
武者小路実篤
白樺派の思想的特徴を最もよく現している
禁欲的なヒューマニズム→徹底的な自我肯定思想
『お目出たき人』…型破りの失恋小説、この時期の代表作
「新しき村」の運動
『その妹』『或る青年の夢』などの反戦的気分の濃厚な戯曲
『幸福者』『友情』『或る男』『人間万歳』
その後次第に人道主義からも離れ「生命賛美」の思想を主張
志賀直哉
白樺派のリアリズムを代表する
内村鑑三への接近と離反、足尾銅山鉱毒事件をめぐる父との衝突
→それらを捨て去り強靭なエゴイズムの世界を作る
前期短編群
『網走まで』『大津順吉』『正義派』『清兵衛と瓢箪』
好悪の感情の激しさがこれらの緊密なリアリズムを支える
『和解』…父との不和が解消した経緯
『暗夜行路』
父との和解の成立により虚構性の加わった長編小説として新たに起稿
宿命を背負う青年→夫婦間の葛藤、自然との融合を感得
簡潔をきわめた文体による描写の的確さ
白樺派を代表する長編小説
有島武郎
自殺に至る思想的遍歴を続けた
全盛期 ― 『或る女』
『カインの末裔』の発表で遅めの中央文壇への登場
『迷路』『小さき者へ』
『或る女』…十年近い製作期間、白樺派を代表する長編小説
作者自身が投影されている
晩年 − 自殺に至る過程
『宣言一つ』…「第四階級」と自己との決定的距離を表明
父から受け継いだ農場の開放などの曲折の末、大正十二年に心中した