文学史 二学期中間範囲
新現実主義 ―大正後期―
耽美派と白樺派のほかに新現実主義と総称される流れ
耽美派や白樺派が見過ごした現実を捉えなおそうという傾向
作家は広範囲にわたり、作風も様々
新思潮派
同人雑誌『新思潮』によって文壇に出た人々
芥川龍之介、菊池寛、久米正雄、山本有三、豊島与志雄ら
社会の暗い現実や人間の姿を突き放して観察し、
新たな解釈を加え繊細な技巧によって描く
芥川龍之介
前期の作品
題材を『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』に得たものが多い
『鼻』・・・題材を『今昔物語集』に得た
『羅生門』『芋粥』『地獄変』など
『戯作三昧』『枯野抄』・・・江戸物
『奉教人の死』『きりしとほろ上人伝』・・・切支丹物
『舞踏会』『雛』・・・開化物
『蜘蛛の糸』『杜子春』・・・インドや中国に取材
後期の作品
『秋』を契機に芸術至上主義からはなれる
『大導寺信輔の半生』・・・自伝小説
『蜃気楼』・・・自己存在の不安を描く
『河童』・・・世相と自身を戯画化
『歯車』『或阿呆の一生』などの遺稿
『鼻』 短編小説
『今昔物語集』の「池尾禅珍内供鼻語」と
『宇治拾遺物語』の「鼻長キ僧ノ事」に取材した作品
人間の自尊心のもろさと傍観者の利己主義とを語っている
『羅生門』 短編小説
『今昔物語集』の「羅城門登上層見死人盗人語」に取材した作品
人間は生きるために必然的に悪を抱え込むことになり、
その悪を許すことが出来るのはやはり悪しかないという暗い人生観
『河童』 短編小説
現代の世相と作者自身の姿を描いた寓意小説
晩年に抱いていた焦燥感や、世相に対する嫌悪
『歯車』 短編小説
死を目前とした作者の神経が、錯乱のままに書き留められている
菊池寛
『屋上の狂人』『父帰る』を第四次『新思潮』に発表
『無名作家の日記』『忠直卿行状記』によって文壇的地位を得る
『恩讐の彼方に』・・・明快な主題と理詰めの構成
『真珠婦人』以降は通俗小説の筆を執る
久米正雄
『破船』などで通俗小説作家としての人気を得る
佐藤春夫
詩人として出発
『田園の憂鬱』『都会の憂鬱』・・・現代の人間の憂鬱な心情を描く
室生犀星
詩人として出発
『性に眼覚める頃』で繊細な官能の世界を描く
新早稲田派
同人誌『奇蹟』に拠った広津和郎、葛西善蔵らは
自然主義を受け継ぎ、「私小説」を定着させた
『奇蹟』廃刊後は『早稲田文学』に作品を発表
広津和郎
『神経病時代』・・・若者の自意識過剰を描く
『死児を抱いて』・・・性格破産者を描く
葛西善蔵
『哀しき父』『子をつれて』・・・極度の貧困の中での自身の生活を描く
私小説作家の代表的存在である
宇野浩二
『蔵の中』『苦の世界』・・・自身の体験を描く
プロレタリア文学 ―大正末〜昭和初期―
関東大震災、世界恐慌に拠る経済不況、
農村恐慌などによる社会不安が背景、『種蒔く人』創刊が出発点
『文芸戦線』創刊、日本プロレタリア文芸連盟の結成と次第に勢力を増していく
昭和に入ってからはナルプ(日本プロレタリア作家同盟)が組織
官憲の弾圧と政治優先の創作理論の影響で昭和九年ナルプ解散
葉山嘉樹
初期プロレタリア文学を代表
『セメント樽の中の手紙』・・・工場労働者の悲惨さ
『海に生くる人々』・・・下級船員たちの階級的目覚め
小林多喜二
政治優先の文学理論を忠実に実践
『蟹工船』 中編小説
蟹工船労働者達の悲惨な労働条件と組織的な闘争を描く
徳永直
『太陽のない街』・・・自分が体験した競争印刷争議を描く
芸術派 ―昭和初期―
プロレタリア文学に対抗
新感覚派
同人雑誌『文学時代』に拠る
横光利一、川端康成、片岡鉄兵
横光利一
『日輪』・・・新たな文体を試みた
『蠅』『機械』・・・実験的手法による作品
『紋章』・・・知識人動揺時の心理を照らし出した話題作
『旅愁』・・・東洋精神と西洋精神の対立
『機械』 短編小説
日本における心理主義の実践として注目を浴びる
川端康成
横光利一と共に新感覚派を代表する
『伊豆の踊り子』・・・青春の感傷を描く
『禽獣』・・・虚無の世界を生み出す
『雪国』・・・禽獣の延長線上に書かれる
『千羽鶴』などで哀しく美しい叙情の世界を追求
1968年度ノーベル文学賞受賞
新興芸術派
新感覚派の流れを受けた新潮社系の作家が中心
中村武羅夫、竜胆寺雄など
井伏鱒二、牧野真一、梶井基次郎らが個性的な文学を開花
井伏鱒二
初期の佳作『山椒魚』『夜ふけと梅の花』『屋根の上のサワン』
・・・人生の哀感とユーモアとがないまぜにされている
戦後『本日休診』『駅前旅館』が好評を得る
『黒い雨』・・・原爆に対する怒り
『山椒魚』・・・作者自身の心の屈託を描いた
新心理主義
ジョイスやプルーストに学び人間心理の深層の流れを表現
伊藤整
『幽鬼の街』、『幽鬼の村』を書き自己の方法を模索
堀辰雄
東大在学中に同人誌『驢馬』を発刊
『聖家族』・・・心理解剖を試みる
『美しい村』・・・結核療養体験とプルーストの手法
『曠野』・・・日本の古典に傾倒したもの
『風立ちぬ』
ヴァレリの詩から表題を取った中編小説
「私」は死を越えた永遠の生を発見
昭和十年代の文学
満州事変以来、社会は混迷を深める
文学も呼応し、激しい動揺と混迷を示した
太平洋戦争以後は文学の否定、作家の徴用などの暗黒の日々
転向文学
小林多喜二の虐殺、日本共産党指導者佐野学の転向が契機
プロレタリア作家の転向が相次ぐ
転向に伴う苦悩を私小説風に吐露したもの
村山友義『白夜』、立野信之『友情』が代表
中野重治『村の家』・・・自己の信念を再確認
島木健作『生活の探求』・・・自己を再生する道の探求
林房雄・・・ファシズムに身を寄せていく
既成作家の活躍
文芸復興の一つのあらわれ
永井荷風『ぼく東綺憚』
無理です漢字出ません。さんずいに墨の旧字体。
谷崎潤一郎『盲目物語』『蘆刈』
島崎藤村『夜明け前』
徳田秋声『仮装人物』『縮図』
志賀直哉『暗夜航路』を完成
『文学界』と『日本浪漫派』
昭和八年、同人誌『文学界』創刊
小林秀雄、川端康成、武田麟太郎、林房雄ら
文学そのものを求める姿勢
文芸復興のあらわれ
中堅作家、批評家達の集団
昭和十年、同人誌『日本浪漫派』創刊
亀井勝一郎と保田与重郎が中心
純粋な文学を求める姿勢
新進の集団
戦時下の文学
石川達三『生きてゐる兵隊』発禁処分に
日中戦争を素材とする小説には厳しい制限をかけた
火野葦平『麦と兵隊』が爆発的な売れ行き
政府は作家達を戦争に従軍させる
国策文学・・・戦争政策に合う内容の小説を書く
昭和十年代の作家
中島敦
『山月記』『光と風と夢』を発表、病死
『李陵』『弟子』が遺稿として残される
『李陵』
中編小説、深田久弥によって命名
極限状況での人間の生きるよすがの追求
その他の作家
石坂洋次郎『若い人』
山本有三『真実一路』
高見順『故旧忘れ得べき』
阿部知二『冬の宿』
北条民雄『いのちの初夜』
壇一雄『花筐』
岡本かの子『鶴は病みき』
石川淳『普賢』
田中英光『オリンポスの果実』
丹羽文雄『海賊』
舟橋聖一『悉皆屋康吉』など
評論
新進の評論家が輩出
蔵原惟人『芸術論』
中村光夫『二葉亭四迷論』
中島健蔵『文学と民族性について』
谷川徹三『現代日本の文化的状況』
三木清『人生論ノート』
林達夫『思想の運命』
小田切秀雄『万葉の伝統』
武田泰淳『司馬遷』
唐木順三『鴎外の精神』
坂口安吾『日本文化私観』
竹内好『魯迅』など
戦後の文学
戦争中に抑圧されていた文学が一挙に登場
老大家の復活
志賀直哉『灰色の月』
永井荷風『踊子』『勲章』『浮沈』
谷崎潤一郎、長編『細雪』完成、『少将滋幹の母』
正宗白鳥『戦災者の悲しみ』
里美ク『十年』
武者小路実篤『真理先生』
川端康成『山の音』『千羽鶴』・・・日本の伝統的美を追求
井伏鱒二『遥拝隊長』・・・戦後世相にほろ苦い思いを表現
伊藤整『鳴海仙吉』・・・戦後知識人の姿を描く
『細雪』長編小説
『中央公論』に発表、時局にそわないという理由で連載中止
優雅な絵巻物風の物語
『山の音』長編小説
川端康成の戦後の代表作
老人と息子の嫁との微妙な愛のゆらぎを描く
新戯作派(無頼派)
自虐的、退廃的な態度の中から作品を生む
織田作之助『土曜婦人』評論『可能性の文学』
太宰治『ヴィヨンの妻』『斜陽』『人間失格』
坂口安吾『白痴』『恋をしに行く』評論『堕落論』
太宰治
戯曲『冬の花火』・・・戦後の便乗思想を批判
『ヴィヨンの妻』『桜桃』・・・既成道徳への反発
『斜陽』・・・戦後社会に対する絶望と倫理的理念を描く
『人間失格』・・・人間に対する不信と恐怖を語る
風俗小説
戦後の世相人心が一変した姿を描く
田村泰次郎『肉体の門』、石坂洋次郎『青い山脈』、
丹羽文雄『厭がらせの年齢』、舟橋聖一『雪夫人絵図』、
井上友一郎『絶壁』など
新日本文学会
プロレタリア系
宮本百合子、中野重治、蔵原惟人らが中心
民主主義文学が目標
宮本百合子『播州平野』『道標』
徳永直『妻よねむれ』
戦後派文学
昭和二十一年、同人誌『近代文学』創刊
評論を主とし、政治よりも人間を優位におく文学を主張
戦後派(アブレ・ゲール)と呼ばれる潮流が形成
梅崎春生『桜島』『日の果て』・・・自己の戦争経験を描く
野間宏『暗い絵』『真空地帯』『青年の環』
中村真一郎『死の影の下に』
椎名麟三『深夜の酒宴』『永遠なる序章』・・・実存主義的画風
武田泰淳『蝮のすゑ』『風媒花』・・・新たな人間意識を示す
大岡昇『俘虜記』『野火』『レイテ戦記』
三島由紀夫『仮面の告白』『潮騒』『金閣寺』
井上靖『楼蘭』『蒼き狼』・・・中国に取材した歴史小説
『真空地帯』長編小説
軍事法廷の本質、将校の腐敗振りや内務班の非人間性、
人間の自然性を抑圧する兵営の実態を描く
『金閣寺』長編小説
金閣寺放火事件に材を得る
主人公の心象を明晰な文体と緻密な構成で描く
第三の新人
伝統的な私小説的方法により日常生活の空虚を描く
安岡章太郎『悪い仲間』・・・自己の意識に固執する姿勢を見せる
吉行淳之介『驟雨』・・・感覚的イメージを描く
小島信夫『アメリカン・スクール』
庄野順三『プールサイド小景』
遠藤周作『白い人』
阿川弘之、曽野綾子など
昭和三十年代
石原慎太郎『太陽の季節』が芥川賞に選ばれる
・・・時代の転換を象徴
深沢七郎『楢山節考』・・・民俗伝承を素材とする
政治性や社会性を含めた人間の全体像を捉えなおそうと試みる
開高健『パニック』『輝ける闇』
大江健三郎『死者の奢り』『同時代ゲーム』
現代という状況下での人間存在のあり方を追求
安倍公房『砂の女』
井上光晴『地の群れ』