倫理 学年末範囲
第8章 日本の風土と外来思想の受容
T日本の風土と人々の考え方
文化の重層的構造
日本文化は旧来の文化だけでなく、
外国からの伝来文化も受け入れた重層的なもの
日本文化の特徴
自然との調和
和辻哲郎の言うモンスーン型風土
自然の働きを受け入れる受容的、忍従的な民族
※『風土』(和辻哲郎)
モンスーン型(東南アジアから東アジア)
湿潤は自然の恵みを与えてくれるが一方で自然の怖ろしさも見せる
→人々を受容的、忍従的にする
砂漠型(アラビア・アフリカ)
自然の恵みを待ち望むことは出来ず
自然への対抗をして自ら勝ち取らねばならない
→人々を対抗的、戦闘的にする
牧場型(ヨーロッパ)
人間に都合よく乾燥と湿潤が訪れ自然は人間に征服される
→人々を支配的にする
八百万の神
一切の威力あるものを神と捉える
自然界に広く霊魂の存在を認め崇拝していた(アニミズム)
禊、払い
人間に対して、外から降りかかる災難について
儀礼によって清めることが出来る
例 厄払い、地鎮祭
清き明き心(清明心)
古代日本人が重視した心
自然のように清らかで、
他人に対して、そして神に対しても隠さず欺くことのない心
U仏教の伝来と隆盛
1,仏教の移入
仏教は日本人の主要な宗教のひとつとして日本人の心の支えになった
仏教が日本に入ってくるのは6世紀
当初、仏は蕃神―あだしくにのかみ―(外国の神)と認識されていた
(1)仏教と聖徳太子
仏教に始めて理解を示したのは聖徳太子である
彼は国家統一の思想的根拠として仏教を利用した
聖徳太子の思想
『三経義疏』 法華経など仏教経典の注釈書
「世間虚仮、唯物是真」
この世は空虚(無)であり、真実は仏の心のみである
「十七条憲法」の制定
「和をもって貴しとなす」 「和」(調和)を非常に大切にした
「共にこれ凡夫のみ」
人はみな欲望にとらわれた存在であり、
絶対的に正しい人はいなく、みな平等である
「篤く三宝を敬え」
三宝 ―仏(真理を悟ったもの、すなわち仏陀)
法(真理、すなわち仏陀の教え)
僧(仏陀の教えを実践している人たち)
(2)奈良仏教
神仏習合
日本古来の神と仏教を結びつけた信仰形態
神社に寺院(神宮寺)を付設したり、寺の守護神(八幡神)を祀ったりした
本地垂迹説
仏が本地(本来の姿)であり、神は垂迹(仮の姿)として
人々を救うためにこの世に現れている
1868年(明治元年)の神仏分離令により禁止される
鎮護国家
仏教と政治を一体化(国家仏教へ)し、
仏教により国を守り安泰にすることを目指した
寺院や仏閣、大仏の建設 例 国分寺造営、東大寺大仏建立
出家の許可制
官僧 ―政府が許可した出家僧 仏教の教理を研究
※鑑真 官僧に戒を授けるために招かれた
私度僧―朝廷の許可なしに出家した僧 行基がその代表
(3)平安仏教
@最澄 ―天台宗(比叡山延暦寺)
奈良仏教の批判
仏教と政治の癒着を批判
儀式や理論を重視する形式的なものより精神や実践を重視した
一乗思想(法華一乗)
部派仏教を批判し、大乗仏教の経典である『法華経』を重視
仏の説いた様々な教えの本質はひとつであるとした
=一切衆生悉有仏性
すべての生きとし生きるものには仏性があり、誰でも成仏できる
・・・と、上を普通に読めば問題なし。
A空海(弘法大師) ―真言宗(高野山金剛峰寺)
真言密教
顕教 ―仏陀が人々のレベルに合わせて教えたもの
密教 ―大日如来が自分自身のレベルで説いたとされる教え
大日如来を宇宙の根本の仏とし、すべては大日如来の現れであるとする
加持祈祷を行うなど儀式化することで布教を容易にした
三密の行
三密の行より仏教の三密と一体となることができ、
大日如来が即身成仏を実現するとした
身=印契を結ぶ
語=口で仏の真言を唱える
意=心で仏を観想する
2,仏教の土着化
(1)末法思想と浄土信仰
鎌倉仏教における末法思想や易行などが庶民に仏教を普及させた
末法思想
仏陀の死後、仏陀の教えだけが残り
修行も悟りもなくなってしまった時期がやってくるという思想
ちょうどこの時期に政治の乱れ、自然災害、病気の流行などが相次いだ
浄土信仰
阿弥陀仏の慈悲の力によって西方の楽しみに満ちた清らかな世界
(極楽浄土)に往生することを信じる
易行の登場
自力本願―座禅
他力本願―観想念仏や口承念仏
源信と空也
源信
『往生要集』を著し、地獄描写を見せながら浄土信仰を説いた
「厭離穢土、欣求浄土」
・・・汚れた現世を離れ、浄土を求める
空也
市聖と呼ばれた踊念仏の祖
(2)法然―浄土宗
他力本願
末法の世に自力の修行により悟るのは困難である
→他力(阿弥陀仏)によって救われる道を選ぶべき
専修念仏
一切の修行を放棄し、ひたすら「南無阿弥陀仏」という念仏を唱える
南無・・・帰依する、の意
※一遍―時宗
誰でも救われるという考えのもと、全国を遊行し、
踊念仏によって時宗を広めた
捨聖や遊行上人と呼ばれた
(3)親鸞―浄土真宗(一向宗)
絶対他力
全ては阿弥陀仏の計らいによる自ずからなる働きである=自然法爾
念仏も自力でするのではなく、仏の慈悲がそうさせている
「善人猶以て往生を遂ぐ、況んや悪人をや」
阿弥陀仏の本願は自分で悟りを開けない人々のために立てたもの
自分で悟りを開こうとする善人よりも、
煩悩にとらわれている悪人を救いの対象としている
(4)座禅における救済
@栄西―臨済宗
宋にわたり禅宗を学んで帰国
禅を収めなければ悟りを得ることは出来ないと考え
禅による鎮護国家を目指した
『喫茶養生記』を著し茶の正しい薬効を日本に知らしめた
A道元―曹洞宗
末法思想の否定
末法思想は人々を教化するための方便であり、現実を見限るのは誤り
自力本願
一切衆生はもともと仏性を持っている
しかし何もしないで悟りを得られるわけではない
→仏陀と同じように座禅を行うことで悟ることが出来る
只管打坐
何も得ようとせず、何も悟ろうとせず、ひたすら座禅をする
→自己の身心への執着から離れた「自己を忘るる」
無我の境地(悟り)に至る
修証一等
修行(修)と悟り(証)は一体であり座禅を組んでいること自体が悟り
そこから仏教の真髄(正法限蔵)を見出すことが出来ると考えた
(5)日蓮―日蓮宗
『立正安国論』
天災が起こるのは人々が悪い法に頼っているからである
「念仏無間、禅天魔、真言亡国、律国賊」
=四箇格言:亡国の危機を救うために他の宗教を批判
→迫害を受けるがこれを法難と呼び、
法華経の行者としての自覚を強めていく
専修唱題
『法華経』こそ末法の世を救う唯一の経典であると確信
ひたすら「南無妙法蓮華経」の題目を唱えれば
仏となることができると説いた
U儒教の日本化
1,儒教の伝来と朱子学
(1)日本人と儒教
儒教は日本人の日常的な道徳の一つとして広く受け入れられた
儒教が伝来したのは5世紀ごろ
江戸時代に朱子学が取り入れられ、大きく発展した
(2)林羅山
師である藤原惺窩の推薦により幕府に仕え支配体制の正当化を行った
上下定分の理
自然に天地という上下の区別があるように、人間社会にもある
→士農工商といった身分制度はこの理に叶ったもの
存心持敬
私利私欲を抑えて慎み深くする心(敬)を持って、
上下の身分制度に従うことが道徳の基本
持敬により本来の性である理が働き礼儀を重んじることができる
※山崎闇斎
儒教と神道を結合し、垂加神道を唱えた
2,中江藤樹―陽明学
形式的な秩序を重視する朱子学を批判し、
心の内面と実践を重視する陽明学に傾倒
道徳の根本、孝
天地自然や人間世界を貫く普遍的な原理
全ての人や物を親しみ、目上を敬って目下を侮らないこと(愛敬)
→時、処(場所)、位(身分)に応じて実践すべきもの。
致良知
孝の根本は良知(善悪を判断する能力)であるとし、
これを働かせ(致良知)、
行為により実践すること(知行合一)を重視した
3,古学
儒学者の解釈に寄らず、孔子や孟子の原典に直接当たることで
儒学の精神を究めようとした
(1)山鹿孝行―古学の提唱者
抽象的な学問としての朱子学を批判し、日常に役立つ学問を重視した
士道
それまで論ぜられていた、主君のためにいつでも死ぬ潔さといった士道を批判
礼節をわきまえ農工商の師(三民の師)となることが武士の職分であるとした
三民の師
農工商は生業に忙しく倫理道徳を追及する余裕がない
→武士が道を教え、道から外れた者を罰する
武士は三民を率いて人としての道を実現する責務を負っている
(2)伊藤仁斎―古義学
古典の独断的解釈を行う朱子学を批判し
古典の古儀(古代語の語義)による文献の実証的解釈を行った
仁愛
孔子や孟子の仁・愛を根本の教えとして重視
仁とは他者を愛することであり、実践するための基礎になるのが誠とした
誠の心
誠とは心に全く偽りのない純粋なあり方(真実無偽)
その実践が忠信と忠恕である
誠の心は古代日本人の清明心に通じるところがある
(3)荻生徂徠―古文辞学
孔子や孟子以前の六経を重視し、古文辞(中国古代の言語)を研究
先王の道
古代中国の聖人たちが転化を安泰にするために作り出した
人為的な道(安天下の道)のこと
経世済民(世を治め民を救うこと)を目的としており、
礼・楽・刑・政という社会制度で具体化されている
W近世町人文化と民衆の思想
1,町人の思想―石田梅岩
石門心学
独学で神道、儒教、仏教を学び、
そこから人間の本性(心)について考えた
平易な言葉で講義したことから多くの人々をひきつけた
商人の買利は士の禄に同じ
批判されていた商人の経済活動を正当化
正直と倹約によって正当な利益を得ることこそ商人の道であるとした
正直:利己心から離れ、相手(客)にして正しいやり方で利益を上げること
倹約:単に節約するだけでなく、それにより物や人を生かすこと
これらは全ての身分の人に共通の普遍的な道徳であると説いた
※鈴木正三
世法即仏法を根拠とし、職業生活を全うすることが仏教修業となるとした
2,農民の思想
(1)安藤昌益
封建社会の批判
階級差別に基づく封建社会を法世と呼び
武士たちを不耕貪食の徒として批判
聖人たちがこの法世を生み出したとし儒教、仏教、神道を否定
自然世
全ての人が農耕を行う万人直耕の理想社会
万物が対立しつつも互いに補い合いながら働く社会
(2)二宮尊徳
天道の認識
農耕などの営みを通して天地万物の営み(天道)を認識
それに対し、天道に働きかける人為(人道)を重視した
報徳思想
天地や人々の徳(恩恵)を認識し、
それらに対して自分も徳を持って報いなければならないとする思想
そこで、人道の実践として推譲と分度の必要性を説いた
推譲:倹約を行い、その分を人々や将来に譲ること
分度:自分の経済力に応じた生活設計を立てること
X国学と伝統文化
1,国学
仏教や儒教などの外来思想に影響されない
日本人固有の精神を明らかにしようとするもの
古学の影響を受け、『古事記』や『万葉集』などの
古典の実証研究を中心に行った
(1)国学の成立
契沖
国学の祖
『万葉集』の注釈書『万葉代匠記』を書いた
賀茂真淵
『万葉集』を中心に古道(自然のままの感情を重んじた日本古来の道)を研究
日本人の素朴で力強い精神を「高く直き心」と呼んだ
この心が和歌に表れたものが「ますらをぶり」である
(2)本居宣長
惟神の道
日本神話から伝わる日本固有の神の道
道とは何かが論じられなくとも国が治まってきたのはこの道によると考えた
→中国思想に影響を受けた心(漢意)を批判
生まれながらのありのままの情(真心)を持って生きるべきとした
もののあはれ
真心を持つ人に現れる自然と沸き起こるしみじみとした感情のこと
和歌や『源氏物語』など文芸の本質であると考えた
「もののあはれ」を知る人を「心ある人」と評価し、
日本人の生き生きとした感情を重視した
※平田篤胤
古道こそ真の道であるとし、仏教や儒教を否定
日本古来の神道を復活させようとする復古神道の立場を唱えた
→幕末の尊王攘夷運動に影響を与える
2,日本の伝統文化
鎖国の中で日本古来の伝統的な文化が見直され、
伝統的な美意識を表す用語が定着した
能楽・・・「幽玄」 茶道、俳諧・・・「わび」「さび」
また、「いき」や「通」などの新たな美意識も流行した
Y西洋近代思想の受容
1,西洋文明とその接触
(1)蘭学
江戸時代に伝えられた西洋の学問は蘭学と呼ばれ、
人々に大きな影響を与えた
幕末では他の国の学問も含めて洋学と呼ばれた
解体新書 『ターヘル・アナトミア』の翻訳書
前野良沢や杉田玄白が著す
尚歯会(蛮社) 高野長英と渡辺崋山により結成された西洋研究のための結社
(2)洋学者の思想
佐久間象山
「東洋道徳、西洋芸術」
=和魂洋才
日本の伝統的な精神を基盤にして、
西洋の科学や技術を受け入れようとする姿勢
吉田松陰
一君万人論
ただひとりの君主に権限を認め
その他の人民には一切差別を認めないとする思想
→倒幕運動に影響を与えた
2,近代思想の展開
明治新政府は文明開化をモットーに西洋思想の受容を奨励
明文社などが結成され国民の思想的啓蒙に大きな役割を果たした
(1)福沢諭吉
西洋文化を受容することによって日本の封建制の打破を試みた
「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らずと言へり」
(=天賦人権論)、その後脱亜論へ
独立自尊の精神
「一身独立して一国団結す」
各人が実用的な西洋学問(実学)を学び他人に依存しない精神
「無形の独立心」を持つことで、国家も独立できると考えた
(2)中江兆民―東洋のルソー
ルソーの『社会契約論』を翻訳(『民約訣解』)
自由民権運動の普及に努めた
2つの民権
恩賜的民権(統治者が与えた権利)を回復的民権
(人民が自ら獲得した権利)に育て上げることが課題
そのために教育体制を整えることを主張した
(3)内村鑑三―キリスト教の受容
無教会主義の立場でキリスト教を信仰
非戦論を唱え、日露戦争に反対した
2つのJ
イエス(Jesus)と日本(Japan)に生涯を捧げることを決意
信仰と愛国心を統合した
(4)大正デモクラシー
民本主義―吉野作遊
主権は人民の幸福のために運用されるべきであるという考え
天皇に主権があることは否定していない
解放運動
女性の社会的解放
平塚らいてうらが女性参政権などを主張
被差別部落民の開放
全国水平社の創設、差別のない社会の実現が求められた
3,国家主義の高まりと社会主義
国家主義
日本の伝統、文化を更に発展させていこうとする国粋主義が登場
例 徳富蘇峰
「下からの近代化」を主張する平民主義
→国家に最高の価値を置く国家主義
日本人の国家意識を育み、大日本帝国憲法や教育勅語で具体化される
→のちに北一輝などを代表する超国家主義に発展
社会主義思想
社会問題の表面化により、
キリスト教や民権論の立場から社会主義思想が登場
幸徳秋水や片山潜らによって展開された
明治天皇暗殺計画があったとして
1911年に社会主義者12名が処刑された(大逆事件)
4,近代日本哲学の成立
(1)西田幾太郎
禅の体験と西洋思想の批判的受容により独自の哲学を構築
純粋経験
主観と客観とを分離する西洋の考え方で批判
自他の区別のない主客未分の状態における経験(純粋経験)が
真の実在を生み出すとした
この人格の実現により禅の極致に到達できる
(2)和辻哲郎
人間の学として倫理学を規定
西洋現代の個人主義的な人間観からの脱却を図った
間柄的存在
人間は個人として存在すると共に人と人との関係においても存在する
人間は個人と社会の二面性を備えた存在である
→倫理は個人と社会の相互作用の中において成立する
(3)柳田国男
常民の日常生活を研究対象とする民俗学を確立
常民・・・ごく普通の生活を営み歴史を支えてきた名も無き人々
民俗学
文字資料に偏重する従来の歴史学を批判
常民が伝承してきた生活、習慣、言葉などの
習俗を資料として集めた